看護師さんに呼ばれてベットサイドへ向かうと、袋を口元にかけて切なそうにしている患者さんの姿がありました。
点滴を受ける準備中に、これから投与する点滴バックを見たら気持ち悪くなり吐いてしまったようです。

がん薬物療法を受けて、悪心・嘔吐を経験した患者において、「条件付け」の機序が作用して出現する症状を「予期性(予測性)悪心・嘔吐」と言います。

かつては20%程度まであるとのことでしたが、近年の制吐療法の進歩で減少し、予測性悪心が10%未満、予測性嘔吐は2%未満と言われています。

予期性悪心・嘔吐に対する最善の対策は、最初から悪心・嘔吐を生じさせないことです。抗がん剤の催吐リスクと患者関連因子(性別(女性)、年齢(若年)、飲酒習慣(無)、喫煙歴(無))に合わせた適切な予防を行うことが重要です。

しかし十分な予防を行っても、今回のように予期性悪心・嘔吐が出現してしまった場合には、ベンゾジアゼピン系抗不安薬が有効であり、ガイドラインでも推奨されています。

今回はガイドライン通り、ロラぜパム(ワイパックス)を主治医へ提案し、処方いただきました。
内服後、気持ちが落ち着いたところで、点滴バックをアルミホイルで覆い(看護師さんのアイディア!!)、点滴を開始しました。

しばらくしてベットサイドへ様子を見に行くと、スヤスヤと眠っておられ、無事治療を終えることができました!
(最後、笑顔で帰られた姿がとても印象的でした!)

予期性悪心・嘔吐は「条件付け」の機序で起きる症状なので、次回も同じように起きる可能性が高く、次回の対策が重要です。
主治医と看護師さんと相談して、治療前日の夜と当日の朝にロラぜパム(ワイパックス)を内服してもらい、点滴バックをアルミホイルで覆うことにしました。

今回は「点滴バックを見て」という条件付けでしたが、これまで経験した中では「治療日前日に思い出して」「ベットサイドの景色」「治療室のにおい・雰囲気」などもありました。

今回の症例を通して、一番大切なのは「患者さんの不安を取り除くこと・安心してもらうこと」だと学びました。ベテラン看護師さんの声かけや雰囲気作りは本当に心強く、頼りになります。

海外では心理学的治療法として、リラクセーションなども有効性が確認されているようです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

参考資料
がん診療ガイドライン 制吐療法
http://jsco-cpg.jp/guideline/29.html#cq09

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プロフィール

hossi
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自己紹介
病院薬剤師として主に外来がん治療に携わっています。高齢化の進む中、医療はまさに日進月歩。薬剤師の仕事も対物から対人へとシフトしていることを実感しています。皆さんと知識や経験を共有し、多くの学びが得られたら嬉しいです。
保有資格
外来がん治療認定薬剤師、日病薬病院薬学認定薬剤師

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