「やせれば全て解決しますよ。その糖尿病も、高血圧も、膝の痛みも。」
毒のある言葉を吐きそうになり、グッと飲み込む。
「運動するのは血糖値にも血圧にもいいんですよ?ウォーキングとかしていますか?」
にこやかに患者様に話しかける。
 
調剤薬局の薬剤師となり、十数年。毎日毎日患者様と向き合う中で気づいてしまった事実がある。
薬は万能ではない。
小さな錠剤、カプセルにはそれなりの力があるけれど、これだけで不調を全て解決することは無理なのである。
 
不調の塊となった患者さまには生活習慣や思考の偏りがあることが多い。
その偏りが少しでも直す手助けができたら…
そんな時に興味が湧くのが、東洋医学や漢方薬の世界である。
 
漢方薬だけでない東洋医学のふかーい世界を覗き見できるのが、「ゆるい生活」(作・群ようこ 朝日文庫)だ。
とても読み易いエッセーで、めまいに悩まされた作者の群さんが、漢方薬局に通う中で生活習慣を改善していく過程や薬局の先生との様々な会話が描かれている。
苓桂朮甘湯や人参湯など馴染みのある漢方薬も出てくるが、中心となるのは生活習慣の改善による養生である。
そして、その生活指導がとてもとても細かいのだ。
 
カフェインを断ち、目に負担をかけないようテレビも趣味の時間を制限し、甘いものを制限し…
最初は、なるほど、カフェインを断つのは納得だ。などと呑気に読んでいたのだが、あまりの厳しさに冷や汗をかいてきた。
甘いものは週に1回小さなおまんじゅう1個だけ…というくだりでは、群さんの代わりに私の心が折れてしまった。
まじか…そこまでするのか!私には無理だ…
 
甘いものを食べすぎた場合は呉茱萸湯を頓服するなど、もちろん対処方法もあるのだが、好きなものを好きなだけという生活とは程遠い状態だ。
群さんは、ゆるく・しなやかに生活を改善をして、それを維持していく。
そこに悲壮感は全くなく、体の変化を楽しむ余裕もあるのだ。
 
ただ、実際には生活習慣を改善しそれを継続することがどれだけ難しいか…
私には実践できない…と思ったし、全ての人に勧められるものではない。
でも、病気を臓器ごとではなく、全身のバランスの乱れと考える思想は面白く、そして養生方法は知っておいて損のないものばかりだ。
 
実際、休息が取れていない患者がいる。
ストレスマネジメントができていない患者がいる。
栄養が取れていない患者がいる。
薬の前にもっと大切なことがあるじゃないと、私は切なくなる。
アドバイスでも、専門家に繋ぐことでもいい。
お節介かもしれないが、薬で解決する前に手助けをしたい。
 
薬以外に、栄養のこと、心理のこと、もちろん東洋医学のことも。
エッセンスでもいいから学んで患者さんに役立てたいと思っている私には、勉強への気持ちをかき立ててくれる一冊だ。

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プロフィール

ゆー
性別
女性
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自己紹介
調剤薬局勤務のママ薬剤師です。
患者様とのよりよいコミュニケーションを目指して試行錯誤しています。
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よろしくお願いします!
保有資格
研修認定薬剤師

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